本業収入を上げる手段
FIREへの近道は、①支出を下げる、②収入を上げるの2つだと思います。これまでは、副業や不動産といった、本業以外での手段で②を達成する方法について、お話してきました。今回は、本業で収入を上げるために行ってきたことのひとつである、博士号の取得についてお話したいと思います。
私のようなサラリーマンが、本業で収入を上げる方法は、大きく分けて、会社で昇給を得るか、転職してより高い年収で働く、の2種類に限られるのではないでしょうか。いずれの方法にせよ、自分のスキルを上げて、活躍できる人材になる必要があるということだと思います。とても地道ですが、突き詰めれば大きなリターンがある(あった)と考えます。
もはやサラリーマンでなくなってしまう「起業する」とか、サラリーマンでありながら「副業する」という手段もあります。後者についてはいくつか記事にまとめました(以下)。今後も記事を追加していきます。
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自分のスキルの見える化
私の本業は研究職でして、まずは自分の研究分野を突き詰めて、その分野のエキスパートとなることで、自分の「セールスポイント」を確立しようと思いました。自分の「セールスポイント」が確立できれば、その分野のことはあいつに聞け、と社内でも認識されるようになります。そうすれば、社内認知度も上がり、面白い仕事に関われる機会も増えます。収入のことを言えば、評価する立場の覚えもめでたくなるでしょう。
昇給の場合は、上記のように、評価者(上司)に認められる活躍をすることが王道でしょうが、もうひとつの方法である転職の場合はそうではありません。転職で年収を上げるためには、転職市場において自分を高く評価してもらう必要があります。しかし、研究者のとして能力は、実際接してみないとわからないことが多いです。一方で、まず会ってもらうためには、その前段階である履歴書や職務経歴書といった書類審査の段階で、相手の目に留まる必要があります。
つまり、自分の身に着けた武器、スキルを外から見てもわかる形にする必要があります。成果も同じです。誰もが見て分かりやすい形にしておくことは、とても重要だと思います。研究者の場合でいう成果とは、所謂3P(Patent, Paper, Presentation)と呼ばれるやつですね。具体的に転職を意識していたわけではありませんが、そういう時が来ても良いように、私はその3Pを実現しやすいよう、自分の研究のテーマ設定を学術的な価値も得られそうなものとして設定していました。勿論苦労もありましたが、ありがたいことに想定通りの成果が得られ、それを外部発表する機会を会社からもいただけて、学会発表(Presentation)、そしてそれを論文(Paper)にまとめることができました。
勿論、外部発表前に特許(Patent)も出願しました。企業内で最も大事なものはこれですので。
社内での昇給か転職か
会社での昇給というのは、勿論その会社に依存しますが、日系企業の場合は、それ程差異が生じるものではないのではないでしょうか。少なくとも、私の居た1社目では、職位に応じて給与レンジが決まっていて、職位が変わらない限りはあまり増えないという制度でした。私の場合もご多分に漏れず、評価はしてもらっても、昇給は大したものではありませんでした。
この時は、具体的にFIREを目指していたわけでもなかったですし、会社の制度がそういうものなのだ、どこの会社もそんなものだろうと思っていましたので、それほど不満もありませんでした。それよりも、学会等で出会う他社の人達から評価していただいたこと、海外の研究者から論文を引用してもらっていることの方が、財産になったと感じていました。そして、この時の自分の理解は正しかったと、今よく分かります。
ちょっと本題からそれてしまいました。「FIREするためのスキルアップ」がテーマですので、本題に戻りたいと思います。昇給でFIREに近づくことは、勿論可能だと思いますが、やはりその近づける距離は限定的だと思います。
その会社の人事制度、給与水準に依るでしょうが、往々にして日系企業ではなかなか難しいかなと。
となると、FIREに近づくためには、転職によって年収を上げることの方が有効でしょう。その業界で最も高い報酬を得られる企業に所属していない限りですが。
論文博士という手段
当時の私は、転職市場での価値を高めるというか、転職先の選択肢を増やすために、博士号も取得しておくことにしました。転職先によっては、博士号を求めるところもありますからね。とはいえ、博士号取得に時間を掛けてもいられません。そのために、適切な転職時期を逃してもいけませんから。
一般的には、3年間大学の博士課程に所属し、博士号を得るわけですが、そこを何とか短縮したいと考えました。私の場合は、書き溜めた論文が複数あったので、それを纏めることで博士号取得の期間を短縮させてもらえることになりました。実は、こういった可能性も考えて、論文を多数書き溜めておいたのです。泣きそうな思いをしながらも、あの時頑張って書いておいて良かったと今でも思います…。
経験者の方は、論文投稿の大変さはご理解いただけるかと思います…。
短縮といいましたが、実は在籍期間0日、つまり入学もしていないということです。そんなことが可能なのかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、可能です。論文博士(いわゆる論博)という制度を利用したのです。通常は、先程述べたように3年間大学に在籍して学び、その成果を、学会発表や論文投稿といった形で世に出し、その実績をもって、博士論文公聴会というプレゼンを実施し、主査および副査の先生方の評価を経て、ようやく大学から博士号を授かるわけです。
この公聴会ですが、一昔前(大昔)の海外では、学位取得を望む学生が、教授達から、非常に厳しい質問、意見を投げつけられ、それを自分の頭脳だけで跳ね返さなくてはならないことから、ディフェンスと呼ばれています。
ちなみに、この学会発表、論文投稿の数やレベルについては、大学(あるいは学部、ひょっとしたら分野によっても?)で違います。優しい(というか甘い?)ところは1報だけで良かったりしますし、厳しいところではレターはカウントされず、フルペーパー(しかも3報とか)でないとダメというところもあります。論文博士というのは、大学で3年間学んだのと同等の成果をもって、そのディフェンス(公聴会)の部分だけを、審査料を納めて審査していただき、その結果をもって学位を授けるにふさわしいかどうか判断いただく、という方法なのです。
運転免許で言うところの、「自動車教習所で練習することなく、いきなり検定試験だけ受ける」と言えば分かりやすいでしょうか。勿論そのためには、自分で論文を書き溜めておき、大学、具体的には主査を引き受けて下さる先生と、事前に調整しておく必要があります。作成中の論文について、先生の指導をいただき、共著で論文を何報か書いておく必要もあるかもしれません。
私の場合には、フルペーパーで6報は書いておくように言われました…。最初これを言われた時は、体よく断られたと思い、諦めかけました。しかし、その相談をした2年後には、意外と論文が書き溜められており、そのノルマをクリアできそうでしたので、2年後に改めて相談に行き、了承いただきました。
論文博士制度の今後
残念ながら、この論文博士という制度は縮小の傾向にあり、多くの大学で論文博士の取得が困難になっています。私の時でもそうでしたが、今はもっと縮小されているのでしょう。大学としても、ちゃんと先生が指導した結果、学位を授けなくては、卒業生と言い難いところもあるでしょうし、入学金や授業料を納めてもらわないことには、経営が成り立たないという側面もあるのでしょう。大学としても、ちゃんと先生が指導した結果、学位を授けなくては、卒業生と言い難いところもあるでしょうし、入学金や授業料を納めてもらわないことには、経営が成り立たないという側面もあるのでしょう。
では、とにかく3年間在籍し、授業料を納めてもらっていたら、実力が不足していても良いのかというと、大学も決してそれを良しとはしていないでしょう。大学としても、そういった卒業生によって、大学のブランドが落ちることは避けたいでしょうから。個人的には、なんとかこの論文博士という制度が、大学側の経営的な側面とも沿う形で存続(できれば拡大)して欲しいと考えています。
企業研究者にとって、3年という期間は短いようで長いのです。企業ですから、会社の方針で研究テーマが変わること、あるいは無くなることも日常茶飯事です。勿論、その間に役職が変わることも、他部署に移動になることもあるでしょう。そんな状況下ですから、3年間も同じテーマに関わらせてもらえるというだけでも、とても幸運なことだと思います。であれば、期間は短かったとしても、十分な学術的な貢献があった場合には、学位を授与しやすくする方法があっても良いように思います。
差別化ポイント
また少し本題からそれてしまいました…。ともかく、私の場合はこの制度を利用させていただき、無事に短期間で博士号を授与していただけました。 博士号はよく「足の裏についた米粒」と言われます。
「取っても食えない」という意味だそうです…。
しかし、博士号を取得できたことは、その後の私のキャリアについては間違いなくプラスだったと思います。 博士号取得後~本記事作成時点までに、2回転職しましたが、採用後の印象から、博士号を持っていたこと(あるいは取得するに至ったプロセス)が、いずれの場合でもプラスに評価されたように思います。
その他、日本に居てはそれ程差を感じませんが、海外の研究者とお仕事する時には、持っているかどうかで扱いが違いますね…。 海外では、博士号を持っていないと研究者として一人前と思われないところがあるかと思います。実際に、海外に企業留学していた時に強く感じました。(また機会があれば記事にしたいと思います。) 研究者以外の方にも言えるであろうことは、「自分のスキルを周りから分かりやすい形にすること」が、昇給や転職に大いに役立つということでしょうか。 そして、それを形にするための努力も、決して無駄にはならないと思います。
今回は以上です。企業研究者の皆様には、日頃の研究成果をうまく活用した学位の取得を、さらには、それを活用したキャリアアップを検討していただければと思います(特に若い研究者の方!)。その他のキャリアアップ、転職の経験についても、また別途記事にしたいと思います。